西郷どん 第21回「別れの唄」

正助改め一蔵が吉之助を迎えに来て、島に骨を埋める覚悟だった吉之助が帰還を決める。サブタイ通り愛加那の唄がもの悲しくも力強いのが印象的な回だった。

島編、映像は美しいしストーリーはドラマチックだし、結果として面白かったんだけど、島に来る前と後で吉之助にどういう(政治的な)変化があったのかさっぱりわからないままなの悲しいな。美しく明るく強い現地妻を持ってめでたしめでたし、意外の変化が見えなかった。せっかくの黒糖地獄という題材も、吉之助の意識を根本的に変える結果には至らず、砂糖を絞る機械の歯車が鉄になったという改善のみ成されて、むしろ「もっと搾り取れ」と言わんばかりの結末になってないかこれ。悪代官・田中の劇的な改心とかもなかったし、本当に吉之助のリア充島滞在記になってるじゃん…あ、もしかしてそれが狙いか…

わざわざ島まで迎えに来る一蔵の健気さに涙が出る。こんなにつれない態度しか取らない相手に、良くここまで尽くすよね、一蔵どん…。一蔵がここまで吉之助に執着する理由がすんなり納得できれば一番理想的なんだけどなぁ。

本心では斉彬の遺志に未練があるくせに、家族のことを考えて「これからずっと島で暮らす」と宣言し、その家族に自ら身をひかせて吉之助を本来の道へ戻す、という展開は、江戸へ行きたいけど支度金が無いとてんやわんやだったときと全く同じ構図なんだよな~。あの時も周りが「江戸へ行け!金は作る!」と言ってくれて、本人は特に何もしてなかったなそういえば。妻(須賀どん)が身をひいて夫を旅立たせる構図まで一緒。これは意図してるのかなぁ…そう、なんだろうなぁ…それって吉之助の魅力に繋がるのかなぁ…繋がってないよなぁ…

みんなに愛される吉之助さぁだから、みんなが彼のために尽力する、というのは文脈としてはそれでいいんだけど、それを見せるためにはまず視聴者にも同じように吉之助さぁを愛してもらう必要があるわけで、視聴者が「この吉之助さぁのためならそりゃー自分を犠牲にするよ!」って思って初めてその先に進めると思うんだけど、このドラマを見ていると吉之助が愛されている理由はいまいちピンとこない気がする…愛されていることが既に既定路線になっているので、そこに疑問を持ってしまうとどうしても納得いかない気持ちばかりが残る。時代設定などはある程度押しつけられるのもやむなしだけど、主人公に絡む感情面でそれをやられるとシラけちゃうんだよなー。私には別にこの吉之助を愛する理由が見当たらないからさぁ。どちらかというと吉之助に反発する人に深く共感してしまうんだよな。

とにかく大島編は愛加那をはじめとする島の人々の躍動感が素晴らしく、いずれ島に戻る吉之助を精一杯愛する愛加那の演技が印象的だった。願わくば、吉之助がその愛に相応しい魅力を持った男だと思わせてくれたらなお良かったけど、そこはいまいちピンとこなかったのが残念…やっぱり、誰にでも情が篤いというのは一歩間違うとただの不誠実に見えて諸刃の剣だと思うんだよなー。もう少し吉之助を押せる材料が欲しい。