おんな城主直虎 第12回「おんな城主直虎」

小野政次が完全に父政直と同化しちゃったかのような演技でびっくりした。吹越満をここまで感じさせる高橋一生ってすごい。しかし、完全に道を違えたように見える次郎と政次だけど、思った以上に政次を見ててしんどくなかったのが自分でも不思議だった。前回と前々回の政次と直親の和解劇が、心の支えになってるのかも。あと、これまで描かれてきた政次の性格が「一方的に不運ばかり引き寄せる」みたいなものじゃなく、政次の方も「いらんところで相手の神経を逆なでする」キャラであるとわかっているので、ツラい境遇も「さもありなん」って思えるというのもあるかもしれない。こういうところは森下さんのキャラ造形のさじ加減の上手さだと思う。脚本家の手のひらの上で転がされる感じがたまらない。
 
直親の最期は良かったなぁ。瀕死で「井伊はどっちだ」ってふらつく姿が印象的だった。一見爽やかイケメンなのにどこか笑顔が空虚で不気味で、それが一生懸命学ぶことで徐々に次期当主として、夫として、父として、少しずつ人間関係を構築しているように見えて、まさにこれからって時にこうやって摘み取られてしまうという、この物足りなさと悲劇性がクセになりそう。直親は自分の好みとは違うけど、それでも次郎がこの人とその心を捧げることに納得出来る魅力のある人物だって思えたので良かった。
 
そして井伊家の受難はまだ続く…ほとんどの男が死に、最後に残った直平、中野、左馬介までもが次々と戦に取られて死んでいく…もうやめて!井伊家のライフはもうゼロよ!ていうか、本当に壮絶だな。中野が「守るために死んでいけるのは本望」みたいなこと言ってたけど、お前らまで死んで、後には身を守る術すらない人たちばっかりが残ったら意味ないだろうが!しかしまぁ、時間を稼がなければならない、他に方法がないって時点で詰んでるよなぁ。当時の力のない国衆の現実を突きつけられる大河である。去年の真田のチートっぷりが際立つ。
 
最後に三人と次郎がお酒を飲むシーンも良かったなぁ。これまで話の通じない脳筋ジジイだとしか思えなかった直平の、前回の「もう見送るのは真っ平だ」という嘆きと今回の悟りきったような笑顔。直平には直平の譲れないものがあって、そのために精一杯生きてきたんだろうなぁと思わされる演出。いやぁ、上手い。脚本も演技もほんと上手い。
 
今川で(井伊存続のために)着々と己の居場所を作る政次。氏真に「怖いのぉ」って言われる程に既に信頼を勝ち得てるのがすごい。そして元康に敵対する一向一揆を影で操ってるっぽいのもすごい。ていうか、この辺ちょっと政次の能力盛りすぎじゃないの?って気もしたけど。まぁ前回の寿桂尼様の「どっちを選ぶ?」で覚醒せざるを得なかったってことなんだろう。ただねぇ、政次の「他人に理解される必要はない、自分だけが悪者になればいい」っていう割り切り方は、正直あまりいい手には見えないよねぇ。今川に食い込んで内部から井伊を(乗っ取られたように見せかけて)存続させるっていう作戦は、井伊側にその真意を理解してくれる者がいてこそ生きる策でしょうに。政次は次郎だけにでも、己の本心を明かすべきだったと思うんだよな。まぁ、直親があの結果になって、次郎が素直に言うことを聞くとは思えないっていう状況だったから無理だったんだろうけどさ。結局のところ、小野をきちんと取り込めなかった井伊が、滅びるべくして滅ぶって話なのか…無情だ。
 
次郎と政次の井戸での邂逅も絶望しかない。「最初から裏切るつもりだったのか、裏切らざるを得なかったのか」っていう問いかけがまた壮絶。どちらの回答でも「裏切った」ことは間違いなくて、それ故にどちらが答えだとしても二人にとって大した意味はないんだろうな。この後、二人がわかり合う時は来るんだろうか。政次はこのまま誰にも理解されずに死んでいくんだろうか。だとしたらあまりに不憫だなぁと思うんだけど、ふと和泉守はそういう生涯だったんだよなぁと思ったらやっぱり絶望しかない。
 
そして「直虎」爆誕。ここでパパ上の「辻が花を着た姿が見たい」が生きるのね~、小憎らしい脚本である。直親の「戻ったら一緒になろう」という言葉といい、ここでこうやって辻が花を着ることへのお膳立てにしてきた感すらある。これは滾りますわ~、さすが第一部の締めだけある。政次の「やってくれたな」って顔がまたおかしくも悲しい。井伊を、極論すればおそらく直虎を守るために政次は様々な策を弄しているというのに、その肝心の直虎が大人しく守られていてはくれないという悲劇が喜劇にもなって面白い。ホント上手いな~。最高だ。
 
その他
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