いだてん 第24回「種まく人」

「さすがの金栗さんも熊本に帰りました。…四年ぶりです。」上手い。森山未來さんのナレーションのタイミングと相まって、ツラいシーンの中でもクスリと笑える。いや、ツラいシーンの中だからこそ笑ってしまうのかもしれない。制作側に手のひらで踊らされている感じがするけど、本当に上手い脚本に手玉に取られているのは本当に楽しいので無問題。もっと躍らせて欲しい。

熊本での幾江さんの言葉が本当に…本当に…それでこそ私の(?)幾江さん…!私は幾江さんは本当に四三をダメ婿(養子)だと思っていると思うけど、それは幾江さん自身にとってダメなだけであって、マラソンやスポーツという世界では希望の存在たりうることもちゃんとわかってるとも思うんだよな。その価値を自分は全く評価しないけど、評価する人がいて、その人たちにとっては大事なものであるということも理解している。そして大事に思われている世界で力を発揮することは悪いとは思っていない。幾江さんにとって価値がなくても、他の誰かにとって価値があるなら、その力を存分にふるえと応援することが出来る。その描き方が本当に素晴らしくて幾江さんの魅力に満ちていて「クドカンさん最高!」と万歳三唱したい。好き。いや、実はマラソン選手としての四三のことも(口には出さないけど)誇らしく思っていて応援しているという解釈の方が正しいのかもしれないけど。そっちでももちろん好き。

そして一方でスヤさんが「負けて帰ってきてもいい」と言う存在であるというのもすごく良かった。個人的にスヤさんは幾江さんが言わなければ今回幾江さんの言ったようなことをいずれ四三に言った気もするけど、でもあの場では妻として四三を庇う立場なの、幾江さんとうまく役割分担しているようにも見えてキュンとした。幾江さんとスヤさんの嫁姑関係、心から推していきたい。

避難所で昼間は笑い、夜は泣いているという話と、スポーツによる復興(大運動会)の話。清さんが嘉納先生の提案に最初は反対してみせる件、なんかものすごく胸にドスンと来てしまった。あと清さんが自治会長(?)をやっているというのがものすごくびっくりしてしまった。いや、清さんは漢気のあるリーダーになれる人材というのは全然納得なんだけど、そういう「代表」とか柄じゃないって言いそうな気がして。小梅もそろって面倒見がいいので、夫婦で信頼されているという描写なのかもしれない。

最初清さんが運動会にいい顔をしないのはすごく気持ち的にわかってしまった。嘉納先生たちは多分被災者を全体としての総量で見ていて、清さんたちは被災者個人の積み上げで見ているんだろうな。それはどちらも正しくて、嘉納先生たちの考え方だって絶対に必要なのだけど、現場で個々で戦っている人たちには「それじゃない」感があるのも仕方ない。そういえば全然描かれていなかったけど、嘉納先生自身の被災状況はどんなだったんだろうか。だいたいいつも(くたびれてはいても)身なりがきちんとしているので、家とかは残ったのかな。

今回アバンで嘉納先生が自らの夢の集大成であるスタジアムにすすんでバラックを建てたことで「さすが嘉納先生」って思ったけど、清さんとの言い合いで思わず「私のスタジアムに」みたいなこと言ってて笑ってしまった。聖人になり過ぎず、時々俗人としての本音が出るところもとても愛おしい。

人見絹枝さん再登場。シマちゃんはこうやってきちんと女子スポーツの襷を絹枝さんに繋いでいたんだなぁ。願わくばちゃんと自分の目で見て欲しかったよなぁ。自分の蒔いた種が芽吹くのを見届けて欲しかった。けれど、叶わない願いがまた残された人を高みに導くのもきっと真実だったりもするのかもしれない。運動会の観衆の中で笑うシマちゃんの幻と、それを見て泣き笑いする増野さんのシーンも切なかった。頭のどこかで諦めながら、心と別の頭の部分で諦められずにシマちゃんを探し続ける増野さんが、この瞬間本当の意味で「諦める」ことを受け入れたのかなぁ。

人見絹枝さん役の菅原小春さん、演技経験はこの大河が初めてと知って感嘆する。ご本人の才能にも心底称賛しかないんだけど、この人にこの役をやってもらいたいと思いついて企画を通す人の「見る目」みたいなものに何よりひれ伏したい。こうやって新しい分野に花開いていく才能もあるんだなぁ…。たたずまいがちょっと市川実日子さんに似てる気がする。市川さん大好きなので菅原小春さんの雰囲気もとても好き。

これで第一部完。次から主役交代なので雰囲気変わるのか楽しみ。阿部サダヲさんは前半にもちょこちょこ出てたので、今後も中村勘九郎さんはちょこちょこ出てくれるのだろうか。この後時代はどんどんきな臭くなるけど、どんな風に描かれるのかも楽しみ。ぐいぐい追いつくぞ!