麒麟がくる 第2回「道三の罠」

The・道三劇場、あるいは道三無双。最初から最後まで、道三の魅力たっぷりな第二回だった。

視聴者としては、道三に本木雅弘さんが配役されている時点でキーパーソンだよなっていうのはもちろんわかるんだけど、道三がどういう人物として描かれるのかは一話の時点では良くわからない部分も多かった。定説通り「食えない蝮」っぽい片鱗は見えるんだけど、珊瑚を自分で拾って戻したりちょっとお茶目な面もあって…と判断が難しいと思っていたところに、最初から最後まで道三の見所たっぷりな第2回。序盤は道三推しで行くんだな~というのが明らかになってスッキリした。

ちょっと意外だったのは、思った以上に人望が無さそうなところ。叔父上は長いものに巻かれ強い者に従う根性で仕えてそうだし、稲葉氏とかは不満を隠そうともしてない。息子ともうまく行ってなさそうな描写も多いし、実際に対面で接すると真意がわからなくて不気味な印象が強い人なのかもしれない。視聴者としてみているとめちゃめちゃお茶目なんだけどな。でも不満のある家臣を抑えつけられるだけの力があるのも確かっぽい。織田信秀に対する戦術といい、人の心を読むのが上手そう。そして読めはするけどそれに対して適切な対応ができている訳ではない(力で押さえつけることが出来ればそれで良いと思っている)という見方も出来て、そういう道三をお茶目な面も合わせて描くというのが面白い。光秀も、おそらく道三の底知れぬ実力については薄々感じているのだろうけど、人間的な部分で「やり方が好きじゃない」って言っちゃうし、態度にも出ちゃうのが青臭くて良い。今後成長していくにつれ、この関係性がどういう風に変わるのか楽しみ。

今回面白かったのが道三が光秀に「旅費として渡した金を半分返せ」って言い出すところ。交換条件として「侍大将の首二つで帳消し」というものも提示してきて、光秀が血眼で侍大将を討ち取ろうと奮戦することになるんだけど、その描き方がコミカルでめちゃめちゃ笑える一方で、借金の形に敵の首を取ろうとすること、その相手が自分の身内に似ていて躊躇することなどを盛り込んで、この時代の人の命の(今の時代と比べての相対的な)軽さと、その軽さに対する(人間の本質的な部分での)忌避感みたいなのがない交ぜになる感じが面白かった。こういう上手く言語化出来ない無常観みたいなの、時代劇の醍醐味だと思う。

その一方で、身内(叔父上)に似た武将を討ち取るというのを、西村まさ彦さん演じる敵将でやった演出は、ちょっとわかりにくかったかなぁ。一瞬「叔父上裏切ってたの!?」って思ったし(額に傷があったから違う人だというのは後から考えたらわかるんだけど、最初見た時はちょっと混乱した)、NHKの役者探索能力を駆使したら西村まさ彦さんに雰囲気が似ている役者なんてすぐに探してこれそうなのにあえて同じ役者を使うことの意味を考えてしまって、肝心の「身内に似ている人を討つことによって、戦の不毛さを感じ、侍の本懐に疑問を持つ」という大事なところが印象に残りにくかったような。ハセヒロさんのせっかくの演技の間中、アレは似ているって演出だったのか~そうか~だったらその意味は~とか頭の片隅で考え続けてしまって、演技に集中できなかったのがちょっと残念だった。

織田信秀という人物を(信長の父親という以外)何の情報もないまま見ているんだけど、うっかり道三の罠に引っかかって総攻めを許しちゃうあたりとか、落ち延びた後の「家に帰って、寝るかぁ」の言い方とか、好感度爆上げ方向の人物に振ってきたので、今後の活躍がめちゃめちゃ楽しみ。信長とどう絡んでくるのかも期待しかない。高橋克典さんはこれは初大河と聞いてびっくり。意外と出てそうなイメージあったのに。なんか時代劇が似合うなぁと思ってたんだけど、経歴見る限りそれほど時代劇やってないのな…今後はNHKの時代劇常連になりそうな気も。それにしても弓矢が一斉に空から落ちてくるシーン、何度見ても怖いな。私がこの戦法の映像を見たのは、確か「平清盛」で源義朝と清盛の一騎打ち(なぜ一騎討ちだったのかいまだに謎)シーンだったような気がするけど、あんな風に矢がすごい勢いで降ってくるの恐怖しかない。そして信秀の弟めっちゃ転がって行ったけど戦士したんだな…立ちション中(ではないか)に矢に射られて転がり落ちて戦死…無念。

今回は織田の黄色の幟が印象的な使われ方だった。勢いのある時は画面中に黄色の旗がはためいて、敗色が濃くなった時は地面にうち捨てられ、踏みつけにされ、汚れて川に流される。川底から空を見上げる(とうち捨てられた黄色い旗が流れて死んだ武将が沈んでいく)構図が印象的だった。カメラワークが(別に独創的とかではなく、普通にある演出の一つなんだとは思うが)印象的で面白かった。

道三VS土岐頼純。土岐家が美濃の守護であり、齋藤家は守護代として成り上がったという背景が(私の中で)ここで明瞭になった。帰蝶は政略結婚で頼純に嫁いでおり、世継ぎを産んで道三の意のままになる守護を立てることが目的だったんだろうなぁ。今回思い切りよく毒殺という手段に訴えてきたのは頼純側が道三の排除を企てたからであり、道三自身は(自分の邪魔をしない限りは)積極的に守護としての土岐家を取りつぶそうとはしていないように見えた。まぁ、頼純にはそうは思えなかったんだろうけど…。席を立とうとする頼純に「頼純! …さま(めっちゃ形式的に)」って恫喝したのがハイライトだったな~。二人の力関係があのわずかなセリフで表現され尽くしてしまうというのがお見事。道三は一貫して冷静沈着で態度を変えないのがまた怖かった。

毒入り茶については、もうどう見ても毒入ってんだろっていう状況で、以外と躊躇なく頼純が飲んでるので笑ってしまった。まさかこんなわかりやすく毒殺とかしないだろうって楽観的に考えてしまったのか、道三という男をどこまでも軽んじてしまう程度のコモノだったという描写でもあるのか。いや、ちょっとは疑わない? 疑ったとしても飲まずに済ます道があったとは思えないけど、ある程度覚悟を決めて飲むのと、うっかり飲んだら毒入りだったのでは、その後の名誉とかにも影響するのでは…? あと謀反の手紙をそのまま証拠として押さえられるとか危機管理能力が低すぎるでしょ。押さえられてもしらばっくれてごまかす程度の気概を見せて欲しい。まぁそういう所が出来なかったのが頼純が毒殺された理由なんだろうけども。

帰蝶が頼純の行動を把握してたっぽいのが切ないなぁ。別に夫婦の愛情があったわけでもなさそうだけど、自分の結婚がなんの実も結ばずにこんな結果で終わるのは虚しかろう。それでなくても帰蝶は利発で聡明で、自分の使命に誇りを持っていそうだしな。あと、帰蝶は今回初めて光秀と顔合わせだったけど、なんか思わせぶりな表情なのが気になる。幼なじみで初恋設定のテンプレートなのか?

戦の様子が映像で描写されるのが興味深かった。アバンで町人が着々と戦支度する図とか、堀とか柵とかを急ごしらえで作ったのを上空からドローン撮影した図とか、面白い映像が盛りだくさんだった。弓矢で一斉射撃とか、その時板状の盾を上に構えるのとか、撤退の時の光秀たちの動きとか、投石とか火俵を梯からゴロゴロ転がすのとか、とにかくこの時代の戦を最新研究結果を踏まえて映像にするんだ感に溢れていて、なんだかほっこりする。火俵から兵士に火が燃え移ってたのは、ちょっと火のまわりが早すぎる気はしたけども! あとあんなにコントみたいに落とし穴に落ちるのか謎…面白かったけど…。

以上、道三の魅力たっぷりな第2回だった。あ~一年間めちゃめちゃ楽しみ。