西郷どん 第29回「三度目の結婚」

今回は西郷の男泣き(ただし嘘泣き)にころっと騙される久光の顔芸が見られただけで、全てのダメ要素が消し飛ぶ面白さだった。青木崇高さんの久光可愛すぎる~。三度見するとことか、多少演技過剰気味にも見えそうなギリギリのところで、あざと可愛さに落とし込むバランスが絶妙だった。これまでの久光というキャラが劇場型だったからこそ、この演技がすんなりと受け入れられるんだよなぁ。そこは役者の青木さんの作戦勝ちという気がする。脚本家が心から楽しんで久光を書いてるんだろうなって伝わってくるし、青木さんがそれを120%しっかり受け止めて演じてると感じる。この面白さはこの作品があってこそだと思うので、やっぱり全ての作品に意味はあるんだろうな…。いくらそれ以外がダメのオンパレードだったとしても、久光がいるだけでこの作品に意味はあるよ!(己に言い聞かせる)

オンパレードの方。久光が「参勤交代やめさせたのに!」ってギリギリしてたけど、見てる側には全く心当たりなし。後出しナレーションで説明とか良く恥ずかしげもなく出来るよなって別の意味で感心する。久光がやったことできちんと描写されたのは、春嶽と慶喜を幕政に復帰させたのに慶喜にイモイモ言われたってことと、酒の席で散々コケにされてブチ切れて薩摩に帰ってきたことだけだったような。あの時もチラッと書いたけど、久光がやるべきことはきちんとやってたというのをあの時点で(ナレーションででも)ちゃんと説明されていれば、ここまで後出しのかっこ悪さは感じなかったと思う。作劇上、久光の有能さを描写したくなかったのかなぁ…久光の可愛さは優秀さともちゃんと併存出来ると思うんだけどな。

久光を懐柔するために西郷が嘘泣きする、という展開自体は良かったと思うんだけど(鈴木亮平さんの演技、本当に素晴らしいといつもため息出る)、可能ならそうやって西郷が態度を変えざるを得なかった理由を納得いく過程込みで描いて欲しかった。今の流れだと「あんなに盛り立ててあげたのに、慶喜は結局薩摩のためにならない方向に進むことがわかった。だから慶喜は切り捨てて、今度は倒幕路線に転換する」って理屈に見えて、まぁそれはそれで一応(そういう考え方もあるよね的に)筋道は通っているんだけど、そもそも「あんなに盛り立ててあげた」の部分は常に慶喜の意向を無視して薩摩側が勝手に盛り上がってただけに見えたし、慶喜が薩摩の意向を尊重した幕政を行ってくれると判断した根拠も全く読み取れなかったし、いざ慶喜が使えないとなったら急に倒幕に意見を転身するその極端さに視野の狭さと自己陶酔の気持ち悪さしか感じないし、正直「こういう人間に自分の上司になって欲しくないわ…」という感想しか抱けん。一蔵がドン引きするのにめっちゃ共感するわ…。

そもそも「民のため、誰もが腹一杯食べられる国のため」に幕府を倒すというのが意味不明。戦争したら民はもっと困窮するんじゃないのか。倒したあとは勝てば官軍だから、戦争の間は黙って耐えろってことなのか。それも、久光を始め薩摩自体はまだ和平路線で行こうとしてる状況で、自分だけの思い込みで倒幕に突き進むことに何の疑問も抱かないのか。倒幕の心を決めるのは百歩譲っていいとして、倒幕の方法をどう考えているのか、武力か政治工作か、武力だとして勝算をどの程度で考えているのか、政治工作だとしたらどのルートなのか、そういう展望もなにも見せられないまま「自分にはいろいろ見えているんだ」的な匂わせだけされると「あ~はいはい、史実からの逆引きでの先見の明がありました描写乙」としか思えん。あと、この描き方だと西郷がめちゃめちゃ自己陶酔型で他人の意見に耳を貸さない人間に見えてしまってるんだがそれでいいのか。もっと上手い描き方いっぱいあるのに、どうしてこう西郷sageにも見えかねない方向で持ち上げようとするのか。こういうのもただの好みの問題なんだろうか。

糸どんとの結婚話。次男のお嫁さんは身重だし自分もいつまでも実家の世話出来ないから早く嫁をもらってくれとせっつく妹、かなり見ててしんどかった。この時代としては正しい価値観なんだろうけど、須賀どんが嫁に来たときも「母親が先が短そうなので労働力として」だったよな~。そんなに繰り返すほど何か重大なテーマなんだろうか。どちらかというと結婚話に持っていくための強引な理論にも見えてしまうんだが。あと笑い話のように「最初の妻に捨てられた」ようなこと言ってるけど、江戸行きのお金の工面&夫の夢の負担にならないために身をひいた須賀どんつかまえて、どうしてそういう無神経な扱いしちゃうわけ?最悪まわりがそう思っていたとしても、ここは吉之助だけはそのことを理解&感謝している描写を入れて欲しかったわ…酷い…なんて酷い男なんだ…控えめに言ってクズ。

愛加那と子供に心を残しつつ、糸どんに結婚を申込みに行く展開も良く理解出来なかった。愛加那と愛し合ってることにしてしまったので、ここでまた糸どんにラブだと浮気っぽくなるからかもしれないけど、「惚れてないけど家のため&自分の唯一の理解者として」結婚して欲しいって良く言えるな?どんだけ面の皮が厚いんだよ?惚れてないけどってわざわざ口にする必要あったのかよ…正直ならいいってわけじゃないだろ…。意味わからん。ここからどういう西郷像を受け取ればいいんだ。糸どんについても、黒木華さんの「ずっと吉之助に心を寄せている」演技自体は本当に見事で見応えあるんだけど、ストーリーの文脈的に見るとそんな何十年も吉之助のことが好きってちょっとセンチメンタルすぎる気もするし、この吉之助相手だと恋が実って良かったね!って素直に思えないのがしんどい。

といろいろと思うところはあれど、久光の「え、お前泣いてるの!?!?」ってシーンだけで全部チャラにした。最高だ!!