スーパープレミアム 「悪魔が来りて笛を吹く」

一昨年の「獄門島」に続く金田一リブートシリーズ(っていうのか?)。第二弾は金田一耕助吉岡秀隆さんを配役しての「悪魔が来りて笛を吹く」。NHKなのでCMもなく、120分どっぷりと横溝世界に浸らせてもらった。70分くらいで早々に謎解きが始まったので「早くね!?」って思ったら、その後延々ともう本当にみっちりとねっとりと上流階級世界の非常識さ&傲慢さを見せつけてくれて、本当に悪趣味すぎてスタンディングオベーションするしかない。最高の横溝ワールドだった。

犯人が自分の出自を知らないまま復讐していたという改変については、思い切ったことしてきたなぁという印象。個人的に、この作品の犯人については、己を悪魔と自覚している絶望感の中での悲哀を伴うゴシックロマン的な雰囲気が味だと思っていて、悪魔の正体を知らないままだとその良さが大幅に損なわれてしまうので、あまり好きではない部類の改変…と感じてもおかしくなかったんだけど、結果的にはこの改変が物語のアクセントになっていて、すごく良かったと思う。物語全体のつじつまや雰囲気よりも、金田一耕助というキャラを際立たせるための改変だった…気がする。そしてそれは大成功してたと思う。すごかった。仰け反った。

誰もが謎解きが宙ぶらりんで居心地の悪い状態の中で、金田一耕助だけが全てを把握した上で「本当に知りたいですか?(チラッチラッ」と一見相手に配慮しているかのように見せかけつつ、実際には自分が真実を語るための免罪符にしてしまっている点とかが、最高に金田一の無邪気な邪悪さが出てて良かった。その無邪気な邪悪さを吉岡秀隆さんの穏やかで優しい口調でやるところが、最高にロックでクレイジーで良かった。吉岡秀隆さんの絞り出すような悲しそうな口調で語られる「あなたが悪魔なんです」の救いの無さよ…!!

「獄門島」でのハセヒロさんのぶっ飛んだ狂気をはらんだ金田一が本当にロックでクレイジーで最高だったので、今回配役が変わると知ったときには(吉岡さんの金田一はそれはそれでめっちゃ楽しみだけど)ハセヒロさんのあの狂気な金田一のままのその後を見たかった…という気持ちが強かったんだけど、いざ見終わってみると「これもまたあの金田一の狂気の延長だわ…そしてこの吉岡さんの口調でやるからこそのエグさがたまらないわ…」という感想になり、配役の変更はまさしくそのために行われたのだと思えたのが何よりも素晴らしかった。演出家の吉田さんのインタビューでは、金田一吉岡秀隆さんにやってもらえることが決まってから結末をわざわざ変更したと書いてあって、さもありなん…アテ書きの威力恐るべし…って平伏する。

次の八つ墓村はまた役者さんを変えてくるのだろうか。八つ墓村といえば金田一が人がいいだけで超存在感のない作品というイメージなんだけど、無邪気な邪悪さを隠し持った吉岡さん続投もいいかもなぁと思いつつ、また全然違う役者さんで新しい金田一耕助の魅力を引き出して欲しい気もするので、全てを制作陣にお任せして安心して正座して待機。出来れば1年に1作くらいのペースで見られると嬉しい。NHKに要望出さねば。

今作は秋子夫人の筒井真理子さんが裏主役ではなかろうか。最後のあの「する?」をどれだけ淫靡で退廃的で救いのない感じに言えるかどうかが、この物語の成功の鍵だったと思うのだけど、結果的に大勝利だったわけで、配役と演技が絶妙だったとしか言いようがない。めった刺しと血塗れの構図は映画的だったなぁ。あとあの音楽がね…あの場面で流れる「Mother」がね…救いの無さを増幅させるよね…ホントにさぁ~~~!最高!!

正直、ミステリとして見ると今回結構粗が多いというか端折りすぎてるというか、天銀堂事件がほぼ導入だけだったり飯尾の存在が空気過ぎたり、それぞれの事件の動機や方法が駆け足でしか謎解きされなかったり、いろいろと気になる部分が多いんだけど、これはもうミステリじゃないんだよ!聖典ともいえる原作と、その後の多くの映像化作品全てに対する「自分たちの新しい解釈の金田一耕助をくらえ!」っていう挑戦状なんだよ!それは原作のミステリとしての面白さからあえて離れて、いわゆる「横溝ワールド」として総括されるおどろおどろしさやその中にある妖しい艶めかしさを再現すること、そしてその中で息づく金田一耕助という地味な(あえて地味なと言おう)探偵を再解釈することっていう着眼点に絞って作り上げた二次創作なんだよ!!って力説したい。誰にも頼まれてないし、自分だけの勝手な解釈だけど。原作をリスペクトして、なるべく忠実に映像化することの大事さは良くわかってるけど、それでもやはりこうやって新しい解釈を模索するチャレンジ精神にはやはり心打たれる。あ~、できる限り長くこのシリーズが同じスタッフで続いていきますように…!