おんな城主直虎 第36回「井伊家最後の日」

瀬名姫と家康劇場。瀬名ちゃんが井伊のことで家康に詰め寄る時の言葉が「どうして井伊を見捨てたのか」じゃなくて「見捨てたままということはございませんな?」って言い方なのがすごく良かった。この時代、戦の流れによっては「一度は見捨てる」ってことがあり得ることだし、もう起こってしまったことを詰っても仕方ないっていう分別があるって描き方に見えて、瀬名ちゃんは気が強いけどちゃんとわきまえてる描写なの嬉しい。於大の方への対応も、上手くいってない感じとそれでもきちんと引き下がるところを知っている態度が、瀬名ちゃんの賢さをきちんと見せてくれてると思う。あ~~この夫婦のこの先も辛いんだよなぁ~~;;しんどい。

近藤殿の「クララが立った!」はネタ過ぎるだろ…w でもこのわずかのシーンで近藤殿の人となりがわかるの、とても上手い。憎しみだけで井伊を乗っ取ったんじゃないんだよね。たまたま木材泥棒の一件で下地があって、たまたま徳川の井伊侵攻でチャンスが出来ちゃったから、流れに乗ったまでで。実際に成し遂げた後には後ろめたさもあって(これは憎しみがあったからこそ感じる後ろめたさでもあるんだろう)、だからこそ井伊の家臣を召し抱えてもいいという申し出が出てくる。っていう流れがすんなりと理解できた。上手いよなぁ本当に。

そして包囲網のように松下からは虎松の養子縁組の話。井伊家の敗戦処理としては願ってもない状況がどんどん積みあがっていく。戦で死なずに済んだ者たちのうち、希望者はそのまま武士として新たな主に仕えて生計を立てていく目処が立ち、次期当主候補は(土地と名は違ってしまうけれど)領主となる道筋がつき、後は「井伊家を再興する」という名目だけを諦めればすべてうまくいきそうだというところまで追いつめられる。そして、面白いなぁと思ったのが、直虎は決して「井伊家を再興したい」という望みを自分自身で強く持っているわけじゃないんだよな。皆がそう望むから。そのために皆で頑張ってきたから。これまでの犠牲があまりに大きいから。「目指さなければならない」っていう思い込みで諦められなくなっている。そして、自分の中にもやっぱり「諦めてしまうのは悔しい」という気持ちもないわけではない。そういう複雑な直虎の心情がすごく伝わってくる。

それをリセットするきっかけになるのは、やっぱり龍雲丸なんだな~。「断っちまえばいいじゃねぇですか」「諦めちまえばいいじゃねぇですか」どっちも同じ程度の重さしか無いとでもいうように、どっちでも何とかなるとでもいうように。でも、そんなに簡単に放り出せることじゃないことも、知ってるんだろうな。でも龍雲丸はあくまでも直虎に別の考え方、別の道を指し示す役割を担っているだけで、運命の相手っていうのとは違う気がする。なんだろう、同じものを見てはいない感じというか。あと、リセットという考え方のきっかけは龍雲丸なんだけど、背中を押すのは龍雲丸じゃないというのがスイーツじゃないなぁって思うところ。ここ、萌えに走りたければいくらでも龍雲丸プッシュ出来るところなのに、しないんだよなぁ。

そして、直虎の背中を押して引導を渡すのは南渓和尚でした。南渓和尚の「そなたはようやった」って慰労の言葉に「ご期待に沿えず申し訳ありませんでした」って泣きじゃくる直虎のシーンは本当に切なかった…これまで期待されて望まれて、それを叶えることを「自分の望み」として生きてきた直虎ですら、この状況はどうしても無理だ手詰まりだと感じていて、それでも諦めることを自分一人では決断できないんだよな。でも南渓和尚が「それでいい」って言ってくれて、ようやくその重荷を下ろすことが出来たんだろうなぁ。悔しさも大きかっただろうけど、ホッとしてもいるんだろうなぁ。張り詰めた糸が切れたような鳴き声に胸が詰まった。

この、直虎の弱さをまっすぐに描くのが面白いところだよなぁと思う。自分自身で「井伊家再興を諦める」って決断をする人物に描くことだって当然出来るのに、あくまで「自分では決断出来ない」人間として描いちゃう。でも、昔の少女時代のおとわなら「絶対諦めない」って結論した気がするから、これはやっぱり直虎の成長あるいは変化なんだろうなぁ。虎松を説得するところも、過去の己の発言を撤回する流れだったし、がむしゃらで向こう見ずな過去の「おとわ」を、ここで一度脱ぎ捨てているように見える。これが前向きな変化なのか、挫折ゆえの低迷期としての描写なのか、まだ3か月あるのでじっくり見続けたい。

今週の直之。「所詮はおなごじゃな」って昔の言葉を言い放った後、「俺はそのおなごに一生ついていくつもりだったんだ」って絞り出すように続けた直之に泣いた。直之は直虎を崇めていた訳じゃない。女城主としての弱さ、頼りなさ、甘さ、全てを弱点としてきちんと受け入れた上で、自分が使えるべき相手として直虎を選んだんだよな~。そこはある意味対等な主従であって、だからこそのこのセリフだと思うとホント泣ける。あんなに小憎らしかった昔の「所詮はおなご」の言葉すら、こうやって伏線として回収してくるのすごい。

虎松の演技に相変わらずため息が出る。今の時代の子役スゲェ…。そして何やら悪巧みを始める南渓和尚…直虎を焚き付けるのを諦めたと思ったら、その矛先を虎松に向けるとか、ある意味一番腹黒くてしたたかだよ…誰よりもしぶとく井伊家に執着しているのは、実は南渓和尚なのかもしれないなぁ。虎松の新たな父上、どっかで見た顔だ…どこだっけ…と気になって、調べたら「ごちそうさん」の詐欺師!和枝ちゃんを騙した詐欺師じゃないか!!脚本家繋がりの配役なのかなぁ?面白いな、こういうの。

そして龍雲丸の妻問いシーンはめちゃくちゃ笑った!「名前を教えてもらえますかね?」「村と容姿がわかれば調べられると思うが」「かわされてるんですかね?」「何やら話が噛み合っていないようじゃな」「だいぶ」って言った後の直虎が(というか柴咲コウさんが)フッってしんどそうに笑うのが本当に絶妙のタイミングと演技で本当に大好きだ!プロポーズのシーンなのに、甘さの中に笑いを入れてくるの、本当に森下脚本らしくてニヤニヤが止まらない。ニヤニヤが止まらないのに、どこか甘さの中に空疎さが漂うプロポーズシーンでもあって、この先が順風満帆に幸せいっぱいとは行かないことを既に予告しているかのよう。

そして龍雲丸は「一緒にいる。とわを残して死なない」って言ってプロポーズしたけど、これ多分フラグなのかなぁ…個人的には(伴侶という体裁でなくても)龍雲丸は最後までとわを陰に日向に支えてあげて欲しいなって思うけど、そうならないってことなのかなぁ…どこまでも覚悟を求めてくる酷い脚本だよ!(誉めてる)

そして直虎はおとわにもどり、幸せに農民として暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

ってところで北条氏康が亡くなり、マツケン信玄が「死におった♪ 死におった♪」とサンバ(違)を踊って事態は急展開する。次回「武田が来たりて火を放つ」ってサブタイトルが既にズルい!目が離せない!