おんな城主直虎 第35回「蘇えりし者たち」

よかった、さすがに三週連続での鬱展開はなかった。再生と復活の物語。

政次の死のショックで死人のようだった直虎が、気賀の惨状を知って飛び起きて走り出す姿に切ない力強さを感じる。ショック療法的な効果なんだろうけど、政次の死に対抗するショックとして気賀での虐殺って重すぎるだろ…でもそれくらいの衝撃じゃないとこちらの世界に戻ってくることは出来なかったのかもな。

たった一人でも生き残った者がいて、なんとか助けることが出来たという事実が、直虎を、南渓和尚を、そして方久を救った。絶望にうちひしがれる中での、小さなでも確実に身近にある希望がどれだけ支えになることか。そして龍雲丸にとっても、自分一人が悪運強く生き残ってしまったという事実に対して、直虎の「生きていてくれて良かった」という言葉がどれだけ許しを与えたことか。心に大きな傷を負いながらも生き残った者たちが、肩を寄せ合ってそれでも生きていく姿が力強かった。「ごちそうさん」でかっちゃんが死んだ後のめ以子の悲しみとその中でのあがきが、やっぱり同じテーマだったような。どんな絶望的な中でも人間は生きていけるし、生きようとしていいんだっていうメッセージに見えた。

全然関係ない…というか小さいことなんだけど、ああやって死体ばかりがゴロゴロとある戦場で、生存者を探すシーン。今回助かったのが龍雲丸だけっぽかったんだけど、こういう「一人だけが生き残る」ってエピソードって、傍から見てると「え、本当に一人だけ?大丈夫?みんな心音まで確認した?(龍雲丸みたいに)声出せないけど生きてる可能性ない!?」って心配になる。

直虎が龍雲丸に対して「勝ちとはなんであろうか」って独り言のように問いかけるのが印象的だった。城を追われ、政次は失ったものの、家の者はみんな生き延び、民百姓を戦に取られることもなく生きている井伊家と、家長を失ってまだ幼い跡継ぎが戦場へ赴かなければならない鈴木家、井伊を奪ったもののその後も戦にかり出されて怪我をして二度と馬に乗れない体となった近藤殿。奪われた者としての恨みはあるものの、奪った相手も必死で生き、そして苦しんでいる姿に憐れみを感じるというのがものすごい説得感あった。直虎と一緒に徐々に許す心を修得してく感じ。

氏真と家康の会談。戦時中の疲れ切っていい感じに乱れた氏真の髪とメイクが職人技。表情の演技も素晴らしい~。そして繰り返し描かれる家康の厭戦気質。直後の酒井との「武田が黙っていますかな?」の後の表情といい、こうやって徐々に家康も成長していく姿が描かれるのがいい。そして氏真のお坊ちゃんぷりがやっぱりいい。「蹴鞠で勝負を決めればいい」とか突拍子もないこと言い出したと思ったら、その後自分で「でもそうなると蹴鞠が上手い者を争ってやはり争いが起こる」って本質ついた発言させるのが素晴らしい~!物事の真理を見抜くことが出来る聡明さがありつつ、あるいはあるからこそ、戦国を生き抜く才覚には恵まれなかった氏真。でもこの後自分が得意とする雅な知識で生き抜いていけるんだから、この人も戦に負けて勝負に勝ってるよな~と。

龍雲丸、髪縛ったまま水被ってたけど、そういうものなの…?あれが当時の一般人の慣習なのか、髪型がカツラだから崩すわけにいかないという大人の事情なのかわからない…多分大人の事情だと思うんだけど確信が持てない…

方久。酒井のあの残虐な独断以降、右往左往し目の光が消え抜け殻のようだった方久が、昊天さんの薬調合を見て銭の匂いをかぎつける感じにニヤリとする。世を儚んで死んで行った者を弔うわけでもなく(先週の予告は明らかにそういうミスリードだったよね?)、銭のために薬を扱う、そのためには僧にならなければならない、という現実路線一直線の帰依に「さもありなん」と。でも「死の商人」を厭わなかった方久が、「生の商人」になろうとしているのが良かったな。方久は方久のフィールドで、今よりはマシな世界で金儲けすべく復活するのが微笑ましい。

口移しで薬を飲ませたのは南渓和尚だ、からの南渓和尚の過剰なスキンシップに思わず笑い転げる直虎と、その笑顔を嬉しそうに見守る寺の僧侶たちが愛おしい。そして隠し里で流行しているらしい「伝わりそうで伝わらない(?)但馬物真似選手権」が可笑しかった。これどこまで脚本にあったんだろう?そしてこの物真似選手権のこと、高橋一生さんは知ってるんだろうか?あのみんなの物真似が、メタ的に撮影しながらみんなで笑い合って撮ってる感じがして、すごくすごーくいいなぁって。

それまで誰も触れなかった政次の話を、ああやってみんなが「こんなだったね」って言いながら笑い合うのって、最高に「但馬が今の井伊を守っている」ことになるよなぁって。そしてなつさんの涙と笑顔が尊くてなぁ…なつさんは政次が井伊のために尽くしていたことを誰よりも近くで見てきた人なので、あれほど忌み嫌われていた政次が、死してこうして井伊の民の中に生きているのを見たら、そりゃー嬉しかろう。

昊天さんたくさん出てきて嬉しい~