おんな城主直虎 第9回「桶狭間に死す」

バン桶狭間終了。信長の存在どころか、義元の討ち死にシーンすらない、なんともあっけない桶狭間だったことよ。でも水たまりに落ちた扇が象徴的だった。次郎にとっての桶狭間は正にこういう状態だったってことなんだろうな。真田丸でも関ヶ原がほぼ描写なしで話題になってたけど、脚本を書く時期と撮影スケジュール考えたら、多分偶然の一致なんだろうなぁ。二年連続で主要な華々しい合戦シーンをこうやって「描かない」っていう表現が出てくるのが面白かった。
 
直盛が死んだことで井伊は一気に混乱に陥る。あんなに頼りなく見えていた直盛だけど、失われてみるとそれでもこの時期の井伊にとって重要な人物だったのだと言うことが良くわかる。直平の暴走をギリギリでなだめ、小野家との決裂を食い止め、表面上だけでも井伊を一つにまとめ上げていたのは、多分直盛の人柄だったんだろう。その死で一気に崩れ始める井伊家 (の家臣団)の結束が哀れであった…。奥山(でんでん)がねぇ…息子さえドン引きするほどに凝り固まってしまった小野への恨みがまた、怖いし愚かしい。直平以下の井伊家家臣の「小野が嫌いだ。嫌いなあいつは何か悪いことをしているに違いない」っていう思考回路が救いようがないよなー。直盛だって小野が嫌いだっただろうけど、感情で暗殺という手段に走らなかったところがやっぱり違うんだよな。
 
直親は今回は全体的にマイルドだった。特に最後に子供が出来たって喜ぶ姿に「あ、ちゃんとしのと向き合おうと努力してるんだな」って思えて良かった。前回次郎に怒られたから、彼なりに反省したのかと思うと微笑ましい。思うに、直親は他人の心がどう動くかというのを読み解くのが苦手なんだろうなぁと。読み解けないわけではない(検地の時政次に「怒ってるな?」って聞いてたから)けど、自分と違う感じ方考え方をシミュレーションするのは苦手そう。そして、直親自身は高潔で真っ直ぐな人間でありたいと思っているからこそ、そうでない卑屈で捻じ曲がった人間の考え方が理解できないし、そこに決定的な亀裂が生まれるのかなぁと。ただ、直親は直親なりに理解しようと努めているし、怒られれば素直に反省もする。根っからの悪人じゃないんだよな。どうして政次と上手くいかないんだろうねぇ…だからこその人間ドラマであるわけだけども。
 
政次は本当に不憫だよなぁ…たった一人の身内である弟を亡くしてしまって、これから井伊の中で孤立まっしぐらかと思うといたたまれない。あと、今回の奥山との対峙のシーンは本当にすごかった。それまで形だけでも弟の義父として接していた空気から一遍、すっと表情を消して相手に一番威力のある言葉での攻撃に転じる姿には、小野和泉の面影が重なって見えたもんな~。短い期間で強烈に存在感を放った吹越満の小野和泉と、それを意識させる高橋一生の演技がガッチリかみ合った感あった。すごいよね、あのシーン。そしてラストの「奥山殿を切ってしまった…」!あんたそこで次郎を頼るのか…頼らざるを得ないのか…ツラい。本当に政次がツラい。そしてツラいけどそこがいいと思ってしまう高橋一生の捻じれた魅力。なんだろね、これは…。
 
今回は千賀の見せ場回だったのかな。当主の妻として手紙を書きまくってそれぞれの家(を取り仕切る妻)を支えるという仕事。女性のネットワークというものがきちんとこの時代にあったんだなぁと思うと感慨深い。次郎にとっての瀬名も、文通相手というよりはそういう政治的なネットワークという背景から来てるんだろうなぁ。時代劇でいう「奥を取り仕切る」って、言葉ではよく出てくるけど実際に何をしていたかイメージできない部分も大きくて、今回はその一端を垣間見たような気にもなれて、面白かった。あと、最後にしのの懐妊を聞いた時の涙が素晴らしかった。「気が緩んでしまって」っていうあの涙の美しさよ!そしてそれを垣間見る次郎の複雑な表情がまた…千賀が次郎を誇り、頼りに思っているのは確かなのだけど、千賀を本当の意味で救ったのは井伊家の跡継ぎという存在であり、それを自分では決して与えることはできないということを実感しちゃったのかなぁ。エグい脚本だ。だがそこがいい。
 
元康(家康)の岡崎城奪還。桶狭間の大敗北という窮地に、瀬名の叱咤を思い出して取った行動だというのが皮肉よなぁ…阿部サダヲの「戻れてしまったのぉ!」と掴みどころなく喜ぶ姿がまた不穏というかなんというか。瀬名と元康の夫婦の面白くも胃がキリキリする感じは清盛の鳥羽院とたまちゃんみたいな感じなんだけど、瀬名が愛嬌あるキャラ立ちなので今後の展開考えるとちょっと重苦しい気持ちになる…森下さん結構視聴者に対して容赦ないことするよね。だがそこがいい。